最終更新:2026年2月|読了目安:12分(構造分析)
本記事は「深界五層・六層(黎明卿編・成れ果て村編)」の核心に触れています。
また、人体実験や身体欠損に関する記述を含みます。
アビスの呪いに対する耐性がない方は、閲覧をお控えください。
結論から言おう。黎明卿ボンドルドは、狂ってはいない。
彼は極めて論理的であり、合理的であり、そして何より「愛に満ちた人物」だ。
『メイドインアビス』という作品が持つ真の恐怖は、グロテスクな描写そのものではない。
「愛」や「憧れ」といった美しい感情が、倫理のタガが外れた瞬間に、最も残酷な凶器へと変貌するという構造的欠陥にある。
今回は、作中最大のトリックスターであるボンドルドと、主人公リコの対比を通じて、アビスという空間がいかにして「人間性」を濾過していくかを解剖する。
- ボンドルドの実験が「悪意」ではなく「家族愛」で行われている論理的根拠
- 主人公リコが、実はボンドルドと同質の「怪物(サイコパス)」である可能性
- アビスの「上昇負荷(呪い)」が、倫理観を物理的に排除するシステムである理由
1. ボンドルドの「愛」はなぜ機能不全を起こすのか
多くの読者はボンドルドを「マッドサイエンティスト」と呼ぶ。
子供たちを解体し、箱(カートリッジ)に詰め、自分の身代わりとして消費する行為は、常識的に考えれば鬼畜の所業だ。
しかし、彼の言動を詳細に分析すると、奇妙な一貫性が見えてくる。
彼は決して子供たちを憎んでいないし、道具として軽視もしていない。
むしろ、一人一人の名前を記憶し、将来の夢を語り合い、心から愛している。
▼ アビス流「愛」の定義
ボンドルドにとっての愛とは、「保護すること」ではない。
「自分の探求の一部として取り込み、共に次のステージ(夜明け)へ進むこと」だ。
主張:
彼の狂気は、手段の残虐性ではなく、「愛すること」と「利用すること」が完全に同義になっている点にある。
根拠:
娘であるプルシュカに対し、彼は手塩にかけて愛情を注いだ。
それは「騙して油断させるため」ではない。
「愛し合う親子の絆」こそが、呪いを除けるための最強のカートリッジ素材になると知っていたからだ。
彼は本気で愛し、その結果として本気で加工した。
「おやおや、素晴らしい」という称賛は、皮肉ではなく、心からの感動なのだ。
2. 主人公リコ:鏡合わせの怪物
ボンドルドを批判できる人間がいるとすれば、それは地上で暮らす一般人だけだ。
少なくとも、主人公のリコに彼を否定する資格はない。
主張:
リコもまた、目的のためなら身体や生命をコストとして支払うことに躊躇がない、ボンドルド側の人間(探求者)である。
具体例:
第4層でタマウガチの毒を受けた際、彼女はレグに「腕を切って」と即座に命じた。
泣き叫ぶわけでもなく、生存のための計算として自分の肉体を切り捨てる。
また、ボンドルドとの死闘の後、彼女は彼を罵倒するどころか、「憧れは止められない」という事実を確認し合い、一種の共感すら示して先へ進む。
反証と結論:
「リコは他人を犠牲にしていない」という反論があるだろう。
確かに現時点ではそうだ。
しかし、彼女の「アビスの底を見たい」という欲求は、母親への愛や地上の友人との約束よりも優先順位が高い。
もし「奈落の底を見るには、レグを解体しなければならない」という条件を突きつけられた時、大人になったリコがボンドルドと同じ選択をしない保証は、どこにもない。
3. 「上昇負荷」という倫理のフィルター
アビスには「深く潜れば潜るほど、帰還時の負荷(呪い)が強くなる」というルールがある。
第6層からの帰還負荷は「人間性の喪失、もしくは死」だ。
これは単なるファンタジー設定ではない。
「常識的な倫理観を持った人間を、物理的に排除するシステム」として機能している。
論点:
アビスの深層に到達できるのは、以下の2種類の人間だけだ。
A. 肉体の構造が人間ではない者(レグ、ナナチ)
B. 精神の構造が人間ではない者(ボンドルド、ワクナ)
まともな神経の持ち主は、第5層までで死ぬか、心を折られて引き返す。
つまり、第6層以降に登場する探窟家(白笛)たちが全員「ろくでなし」なのは必然なのだ。
彼らは性格が悪いのではない。
「ろくでなし」に進化しなければ、その場所に立っていられないのだ。
4. よくある質問(FAQ)
- Q. 結局、ボンドルドは死んだのですか?
- A. 肉体としては何度も死んでいますが、精神(ゾアホリック)は滅んでいません。リコたちの旅路を「憧れ」として見守る概念的な存在として生き続けています。
- Q. 「度し難い」とはどういう意味ですか?
- A. 「救いようがない」「理解の範疇を超えている」という意味。作中では、アビスへの探求心が強すぎて理性を失った者への、呆れと敬意が混じった言葉として使われます。
- Q. なぜこんな残酷な話が人気なのですか?
- A. 残酷さと同量以上の「冒険へのワクワク感」が描かれているからです。死ぬかもしれない恐怖よりも、未知を知りたい好奇心が勝る。その人間の業を美しく描いている点が評価されています。
まとめ:冒険の正体は「呪い」である
『メイドインアビス』は、可愛い絵柄で読者を誘い込み、不可逆な変異を見せつける罠のような作品だ。
しかし、一度その深淵を覗き込めば、ボンドルドの言う「素晴らしい」という感覚が、ほんの少し理解できてしまうかもしれない。
倫理を捨ててでも、知りたいことがあるか。
その問いに「Yes」と答える者だけが、アビスへお入りなさい。
「憧れは、止められねぇんだ。」
全世界が震えた、美しくも残酷な冒険譚。
ボンドルドの「愛」を、その目で確かめてください。
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